公開: 2024年3月8日
更新: 2024年7月24日
日本社会では、良い大学に入学するためには、入学試験で1問でも多く問題を解き、正解することが重要になります。この目的を達成するためには、相対的な学力を測る手段である「偏差値」を高くすることが重要です。それは、問題の解き方が分かっているとき、その解き方を正しく当てはめて、早く、できるだけ多くの問題を解くことが大切になります。
このような能力の評価方法を採用している社会では、偏差値の高い人ほど、高い評価をうけます。日本社会は、まさにその典型と言えるでしょう。このため、日本社会に成立している進学塾産業では、過去の試験問題を分析して、パターンを見つけ出し、パターン別に解き方を開発して教えるやり方を採用します。この方法によって、個々の学生・生徒の能力・特性に関係なく、彼ら、彼女らの偏差値を向上させることができます。
さらに、学習塾や予備校の場合、通学する生徒たちの目標は、「特定の志望校への入学」です。そのための方法としては、受験生の偏差値を調べ、その生徒の偏差値で合格しやすい大学を見つけ出し、合格のために必要な偏差値に到達するための方法として、どの教科の学習が必要なのかを分析します。この場合、どの大学で、どの専門を学ぶかは問題にしないので、大学名と受験者の偏差値だけが問題になります。
これは、特定の大学への入学試験合格が、その人の人生の目標であれば問題はありません。しかし、現実には、入学後の専門的な教育を学び、卒業して、社会で働くという、その先の人生があります。その人生を歩むためには、自分が学ぶ専門と自分の適性が適合していなければなりません。大学教育の現場では、しばしば、希望した大学に入学したにもかかわらず、自分の適性には合致していないため、入学した大学を途中で退学するという例があります。これは、大学名と偏差値だけで進路を決めたために起こる問題です。
この問題の原因の一つに、大学卒業後の企業の採用試験があります。日本社会では、企業は、学生である就職希望者に対して、その学生が大学でどのような専門知識を学んだかを問わずに、採用試験を行います。このことは、他の先進諸国の採用と大きく違っています。つまり、大学での学びと、。就職後の企業での仕事に、直接的な関係がありません。そのため、企業側では、学生の採用時に、専門知識を問うような選抜はしません。このことは、米国社会などとは大きく異なり、高校生が大学で何を学ぶかを深く考えることなく、大学受験をする社会的背景を作り出しました。